蓄えの殆どを酒につぎ込まれ、とうとう我慢の限界に達した私は、一ヶ月の出張を終え帰国した夫とそのまま別居生活に入った。
「もう二度とこんなことはしない。 頼むから自分のもとへ戻ってきて欲しい」 彼はそう言っては何度も毎日電話をかけてきたが、私は暫くの間は一切聞く耳を持たなかった。 彼から何をどういわれても、何も信じることができなかった。 期待と失望を繰り返す生活にいい加減疲れ果てていたのかもしれない。 それまで曖昧だった「離婚」という二文字が、その時にはっきりと脳裏にうかんだ。 別居後しばらくして、私の怒りも何とか落ち着いて来た頃に、電話で夫からこの結婚生活を何とか続けていくために、マリッジカウンセリングにどうしても一緒に行って欲しいと切り出された。 日本とアメリカの大きな違いだろうが、日本人夫婦の間に問題があったとしても、あえてカウンセリングに二人で出向き、他人の前で自分たちの問題を赤裸々に語るということはめったにしないはずだ。 アメリカでは、夫婦間の問題に限らず、心に何か問題を抱えている人たちがカウンセリングを受けるというのは、極めて普通のことだ。 夫からの電話の後、しばらく考えた末にカウンセリングを受けてみることにした。 最後に出す結果はどうであれ、二人のためにできることは全てしたほうが、後になって後悔することがないと思ったからだった。 #
by kyouichinichi0104
| 2007-04-23 09:53
| 出発まで
夫は仕事上出張が多く、一年のうちに何ヶ月間か家を空けることがある。 韓国への出張中で家を留守にしていたある日、私はスーパーで買い物しようとATMへ立ち寄った。 一瞬、自分の目を疑う。 口座に入っているはずの現金が殆どなくなっている。 嫌な予感が胸をよぎった。 夫の宿泊先である韓国のホテルに電話をしたが、 なかなか連絡がとれない。 もどかしい気持ちを抑えながら留守番電話に 何度もメッセージを残し、やっと夫からの連絡があった。 一体どうなっているのかと、捲くし立てて問い詰める。 何とかつじつまを合わせようと、しどろもどろになりながら彼は弁解を試みるけれど、五年間も一緒に暮らすと彼が正直に話しているのかそうでないかはすぐに分かってしまう。 嫌な予感は的中した。 やはり私の想像していた通り、口座にあった現金を殆ど酒についやしていたのだった。 失望と碇、そしてまた過去の嫌な思い出が頭の中をよぎる。 以前にも私の叔父が突然他界し、急遽葬儀に参列していた時に夫は何をしていたかというと、出張先で泥酔し、他の女と浮気をし、ご丁寧にも性病まで貰って帰ってきた。 かと思えば、夜中に酔っ払ってクローゼットの中に用を足してみたり・・・。そんな失態は数え上げると本当にきりがない。 最初のうちは仕方がないと思いながらベットまで連れて行ったり、吐くまで飲んだ夫の背中をトイレでさすってやることもあったが、五年間もそれを続けられるといい加減こっちも嫌気がさしてくるのが現実だ。 あおるように酒を飲む夫を見るたびに、私のどこかに問題があるから彼はこうして飲むのだろうかとか、仕事のストレスがあって飲んでいるんだとか、はたまたアメリカ人でしかも若いからこんなの見方をするんだと、いろいろな理由をつけては自分をなだめすかし、現実を直視することを避けてきた。 完璧な人間なんていないし、結婚生活なんて我慢と忍耐の連続なんだからと。 #
by kyouichinichi0104
| 2007-04-19 08:57
| 出発まで
夫がアルコール依存症だと医者から告げられて二週間後、私は空港で一人ハワイへ向かう飛行機を待っている。 空港へは出発の時間よりも大分早く着いてしまった。 午後八時過ぎの便を待っているせいか、ロビーには人がまばらだ。 大きな窓ガラスに映る太陽が沈みかけ、静かに夜の訪れを告げている。 夫は既に日本を発ち、ハワイにある病院でアルコール依存症の専門的な治療を受けている真っ最中である。 今、こうして私が空港にいるのは、その治療に家族として参加するためであった。 出発までのこの一週間は本当に忙しかった。 米軍基地の中で私が勤めていた会社の撤退が突然決まり、後処理やその他もろもろの雑務をハワイへ出発する前に全て片付けてしまわなければならなかった。 睡眠時間もろくにとれないまま、急いで出発の準備をして空港まで来たというわけだ。 体は疲れているはずなのに、目を瞑り少しだけ休もうとしても、これから始まる治療やカウンセリングのこと、そして私達夫婦のこれからのことなど様々な思いが頭の中を駆け巡り、落ち着くことなどできなかった。 米軍に勤務するアメリカ人の彼と結婚して五年目。 まだ子供はいない。 産むことも考えたことはあるが、自分の心のどこかで その決断にブレーキをかけていた。 夫とこのままの状態で結婚生活を続けていくということに 自信が持てなかったからだ。 彼は優しい人ではあるが、なんとなく頼りない 存在だったかもしれない。 自分よりも年下というせいもあるのかもしれないが、 それよりも何よりも彼の酒の飲み方がどうしても私を 不安にさせた。泥酔するまで酔い、酒にまつわって 彼が犯した失態は数えようがない。 私達夫婦の喧嘩の火種は常に酒が絡んでいた。 激しい口論になるたびに口癖のように彼は決まって、 「もう神に誓って酒はやめる」 この言葉の繰り返しだった。 結婚してから今までの間もずっと、彼との将来をともにして家庭を築き上げていくことが私の頭に浮かんでこなかった反面、いつか彼は必ず変わるという少しの期待が私の心のどこかにあったのも事実だ。 このほんの少しの希望が、この五年間という結婚生活をそれまでどうにか維持させてくれたのだろう。 #
by kyouichinichi0104
| 2007-04-18 13:35
| 出発まで
ハワイのリカバリーセンターから戻り、今年の夏で5年を迎えようとしています。 これまでに至る回復までの道のりをこうして分かち合うことで 誰かの希望と力になれたなら・・・・ そんな思いで綴っていこうと思っています。 #
by kyouichinichi0104
| 2007-04-18 12:55
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